あなたは「偉大な理系力」を持っている。理系力とは果たして?
理系力を生かして“自分らしく”稼ぐ
合コンの自己紹介で、自分が「理系出身」であるということを最初に切り出す人は少ないのではないでしょうか?
それは「血液型がB型であるということを言い出しにくい」のと、どこか似ています。なぜなのかと考えてみれば、その理由はとてもシンプルです。“少数派”であるということ。そして“変わり者”だと思われるからです。
昨今、日本の大学で理工学部の入学者の割合は約17%。ここに農学、医・歯・薬学などを加えて理系全体の割合は35%になるそうです。つまり、あなたは理工系というだけで、この日本における2割という希少な生き物に分類されており、さらに世の中からは「ちょっと変わっている」という名誉な称号が与えられています。
理系だというだけで偏見だ、と思われるかもしれません。ですが、そんな世の認識を変えようとする必要はありません。なぜならば、これは社会人として、ビジネスマンとしてとてもお得なことだからです。
理系ソサエティへ、ようこそ!あなたはもう偉大な理系力を持っている
それは、理系が少数派であるからこそ、目に見えないながらも世の中には「理系ソサイエティ」が存在し、あなたはその住人として、大歓迎される存在なのです。
例えば、車に乗っているだけで“車乗り”といった仲間意識は生まれません。しかし、これがバイクだったならばどうでしょうか。ただバイクに乗っているというだけで“バイク乗り”という仲間意識が生まれることはお分かりいただけるものと思います。
少し話はそれましたが、「理系であること」は偉大な力を持っています。それは、どんな会社、どんな分野、どんな学会に行こうとも、“理系”というだけでその“仲間”として迎えられるという力です。これは、生きていく上でお得以外の何物でもありません。とても偉大な力であり財産です。
戦略の要に技術者あり。時に煙たがられても、技術の社会への実装者
理系離れが語られて久しいのは残念なことです。どうやら、科学技術に対する興味関心が薄れていたり、理系は文系より稼げないといったことがまことしやかに囁かれていたりするようです。確かに昨今、技術の会社であっても、文系の経営企画・マーケティングが戦略を立て、理系の技術者はそれに従って製品開発を行うといった流れがあることも確かでしょう。
ですが、これをもっと深く良く見れば、真に技術力ある企業というのは、一時の世論などに流されることはなく、本物の技術を見極めて、着実に歩みを進めていることが分かります。なぜそれができるかといえば、そうした戦略チームの中に先見性のある優秀な技術者が居るからに他なりません。
そんな会社だったらいいけどウチは・・・と思ったあなた。その気持ち、とても良く分かります。
理系が時に煙たがられる場合があります。正論じゃ物事は進まない、今はそうじゃない、空気が読めない。
いかがでしょうか。そうハッキリとまで言われなかったとしても、多分そう思われたかなぁ・・・に思い当たるところがあるのではないでしょうか。なぜ?と考えれば、一つの構造的な理由に行きつきます。
それが、我々は“理系”だということです。我々“理系”は、いわば科学技術、自然科学、自然法則の探求について教育を受け、それらをコアスキルとして身に着けています。当然のことながら、こうした自然法則の世界にあって正解が二つある、といったことは存在しません。現代科学の粋、技術的に考えればこれが正解というものが必ず存在します。
ところが、ビジネスシーンでは、これが通用しない場合があります。ビジネスは人の営み、社会的な動きから成り立っているため、時にこの正解が通らない、といったことが起こり得ます。お客様からの不条理な要求、現経営陣の意向、競合他社の動向、世界各国の政治的な駆け引きなど、こうした思想哲学的な世界においては、絶対に相いれないいくつかの思想信条が存在していることが知られています。
ちなみに、あなたは多数決、その場の雰囲気、政治等を好まないのではないでしょうか。そうです。我々“理系”が煙たがられるのは、多数決がキライだからです。
敗戦後の日本が技術を中心に据えてきたのは、そうした確固たる拠り所を持つことで時の大衆心理といったことで踏み誤らないようにするためだったはずなのですが・・・。昨今は、ビジネス的に上手くやればそれでいいとばかりに、時の潮流、大衆迎合、ポピュリズムうんぬんと、短期的な正解を外に求める風潮は残念なことです。
ちなみに、筆者は大学卒業後、働きながら修士課程、博士課程に進み博士号を取得しました。現在も末席ながら、研究という世界にも顔を出させていただいています。そうした中で気付いたことは、技術の進歩発展というのは、著名な研究者、誰か一人の力だけで成されてきたのではないということです。
多くの研究者、現場の技術者の献身的な努力によって、多くの知見が生まれ、それが大きなプールに貯まっていき、一定の飽和点に達した時点でまた一つの新たな技術が生まれるということです。
だからこそ、我々は粛々と一滴でも良いのでこのプールに貢献することを目指しつつ、技術の社会への実装者として、日々の仕事に取り組んでいくことが大切ではないでしょうか。
理系力の活かし方・稼ぎ方 ~ 専門分野を深め「応用」することの大切さ
ところで、理系はつぶしが効かないといったことが聞かれます。確かに専門分野は狭いかもしれませんが、その専門分野が思想を形成する軸となり、むしろ広く応用力を養うことにつながります。
そもそも年齢を重ねていくことは、ある意味で可能性の範囲を絞っていくことで、一本の道を描くようなものです。それは、一見、他の可能性を失っていくように見えるかもしれませんが、それこそが、あなたが拓いた道であり、自分らしさを創り上げていくことです。絞るから道になる訳です。ですから、迷わずご自身の専門分野を深め、ご自身の道を切り拓いていっていただきたいと思います。
ただし、学んで身に着けてきた技術力がそのまま稼ぎにつながると考えてしまうのは違います。往々にして技術者などの専門職というのはその技術力、スキルレベルが稼ぐ力だと考えてしまいがちです。当然のことながらスキルレベルは高いに越したことはありません。ですが、我々が技術の社会への実装者であるならば、もうひとつ大切な視点があることに気付かなければなりません。
それが何かといえば、“応用”です。あなたが所属するチームへの応用、会社への応用、延いてはお客様への応用です。つまり、稼ぐ力というのは、あなたの持つ「技術力」を誰かのために使うこと。つまり「応用力」を伴ってはじめて世の中に効果がもたらされます。
「理系の心は自然法則への畏敬の念」を心に歩んでほしい
社会、ビジネスの世界が面白いのは、こうした応用でいかようにも稼げるということです。たとえ今、成績が悪かったとしても何も心配は要りません。卒業してしまえば、これから先の学びの方がこれまでよりも多いですし、あなたらしい応用力で何とでも稼げるのですから。
そして、そうした経験を積み重ねた先、ご自身でビジネスを興すといったこともまたその先の探求の道として面白いかもしれません。
理系の心は自然法則への畏敬の念。これを心に、世の多数決に惑わされず、あなたらしいエンジニアとしての道を歩んでいただけることを切に願っています。
平成7年卒業
工学部第一部 機械工学科
宮口 直也