技術士を目指せ!
みなさまこんにちは。平成9年(1997年)に本学大学院工学研究科電子工学専攻を修了した高橋です。電機大学を知ったきっかけから、技術士資格取得までの道のりをご紹介したいと思います。
「こんな大学があるんだ!」東京電機大学との運命的な出会い
私が東京電機大学のことを知ったのは中学生の時でした。当時、「子供の科学」や「初歩のラジオ」といった雑誌が愛読書でした。ある時、この巻末に毎号広告が掲載されていた、科学教材社*1に行ってみたいと、同じクラスの友人と神田錦町にあった科学教材社の店舗を訪れることにしたのですが、この訪問が東京電機大学を知るきっかけとなりました。
科学教材社を出て歩いていると、目に入ってきたのが当時の神田校舎7号館の横にあった“東京電機大学”の看板。その頃は将来の進路をあまり考えておらず、大学の名前すら知りませんでした。ただ、看板に書いてあった大学の名前がキラキラと輝いて見え、「こんな大学があるんだ!」と強く印象に残ったことを今でも覚えています。

そのことがあってか、数年後に東京電機大学を受験し、無事入学することになるのですが、1年生は、神田校舎でなく遠い遠い千葉ニュータウンキャンパス。当時の気持ちは、早く神田のキャンパスに通いたい!が本音でした。
*1 株式会社 科学教材社(かがくきょうざいしゃ)。「子供の科学」などを取り扱っていた誠文堂(現:誠文堂新光社)の代理部からスタートした千代田区神田錦町で科学・模型関係の教材を扱う老舗企業。
「CQ、CQ、こちらJA1YAQ」アマチュア無線部で育まれた情熱と歴史
大学時代はアマチュア無線部に所属しました。各部員は好きな活動をするのですが、私自身は春に開催される神田校舎5号館の体育館横の送信室で「ALL JAコンテスト」*2に参加し、夏には取りたての運転免許でレンタカーを運転しながら群馬県の赤久縄山に行き「フィールドデーコンテスト」*2に参加したりといろいろと活動をしていました。
アマチュア無線部のアンテナは神田校舎5号館の屋上にあったのですが、当時大手町にあった気象庁が近隣のため、通常であれば1000W(最大)出力の免許まで許可されるアマチュア無線局(固定局)が、気象観測の障害になるという理由から50Wまでと制限されていると聞いたことがあります。

筆者が高校生の時に欲しかった八重洲無線製アマチュア無線機『FT-102』のカタログ
今の無線機の送信回路は半導体が当たり前だが『FT-102』は真空管を搭載している。
東京電機大学のアマチュア無線部(JA1YAQ)は、JA1というコールサイン*3からもわかるように2025年には創立70周年という長い歴史を持ちます。創部は故高田継男氏(JA1AMH)の代。そして中西洋夫氏(昭和37年D科卒、JA1CQT)の代では、社団局(クラブ局)が開設されました。
国から社団局が許可されるという話を聞いた中西先輩達は、局免申請のために小川町にあったハンコ屋に駆け付け、角印を徹夜で急いで作ってもらい、当時は湯島にあった電波管理局に申請書を持参した、という逸話が残されています。
今年(2025年)9月には北千住キャンパスにて創立70周年の記念大会(会長:別府明雄氏:昭和40年C科卒,JA1FRP)が開催され、約70名のOBが出席されました。今でもアクティブに活動されるOBの皆様の話を伺い、スマートフォンが時流ながらも、やはりアマチュア無線は趣味の王様だなと心から実感した時間でした。今後もずっと歴史が繋がっていって欲しいと思います。

アマチュア無線部OB会(創立70周年記念大会) 2025年9月27日開催
筆者は最右列(手すり沿い)3人の手前
*2コンテスト:一般社団法人 日本アマチュア無線連盟(JARL)が開催するアマチュア無線のコンテストで無線家の交流を主目的とし規定時間内の交信数で競う。「ALLJAコンテスト」は国内最大規模、2025年春で第67回、また野外活動と組み合わせた「フィールドデーコンテスト」は第68回を迎えた。
*3 コールサイン:誰がどこから電波を出しているのかを正確に識別することができる、電話番号のようなもの。
大学院時代の恩師の教え、「結果は、能力・努力・根性が掛け算」
大学卒業後は大学院へ進学。故柿倉正義教授*4の知能研究室でロボットの研究に力を入れました。柿倉先生はとてもお酒を好まれる方で、よく「高橋君、頭の良い人というのはそんなにいないと思うんですよ。研究というのは、能力・努力・根性が、掛け算で結果が出るものですから」とおっしゃられていたことを今でも良く覚えています。
それこそ、社会に出て仕事をしている中で「こりゃヤバいな・・」という場面に幾度となく出会いますが、そんなときにふと先生の言葉を思い出します。
*4 柿倉正義(かきくらまさよし)教授:工業技術院電子技術総合研究所情報制御研究室長、自立システム研究室長を経て、1990年より東京電機大学工学部教授。家庭用サービスロボット・作業ロボット等の研究の他、著書に「知能ロボット入門」(1989年オーム社)など
世の中の流行を読み解き、技術者の「審美眼」を磨く
卒業後、私は電機メーカーに入社しました。入社後は半導体事業部の応用技術部門に配属になり、途中6年間の工場での勤務を経て、現在も半導体の応用技術業務に従事しています。主にオペアンプ・電源ICといった汎用アナログICやトランジスターなどディスクリート半導体の市場調査・商品企画・製品開発・拡販と顧客対応と多岐にわたる業務に携わっています。

筆者(高橋正好)が開発に携わった半導体製品の一つ。
スマートフォンやノートPCなどに使用する電源IC (半導体)、大きさは2.9x 2.8(mm)。
左上はシャープペン (0.5mm)芯、大きさの比較として撮影。
指先ではつまみにくい大きさのため扱うときはピンセットでつまむ。
半導体の応用技術者は商品企画が最大のミッションです。技術者になってよくわかることですが、売れる半導体は世の中の流行りに乗っているため大変売れます。政府の方針で地上デジタル放送への切り替えが決まった時は薄型テレビ向けの半導体が売れ、新型コロナが拡大したときは在宅勤務対応としてノートパソコン、また巣ごもり需要の影響でコンシューマー向けの電子機器の販売が増加し、これらのマーケットに向けた半導体と、需要は増加するばかりでした。
・今どんなゲーム機が売れているのか?
・どんな自動車が売れているのか?
・では今後、世の中はどうなっていくのか?
・どんな物が売れて、どんな半導体に需要があるのか?
・必要な電気的特性・必要な回路技術・どのくらいの価格で売れそうか?
・限られた開発費・リソースで最大の利益を出すには、どんな製品を上市(市場投入)すれば良いのか?
現状把握、世の中の流行・政策・オリンピックや万博などの大きなイベント、天災などBCPに関わる不確定要素も考慮し未来予測をして、新しい半導体製品の商品企画を行うことが重要になってきます。
半導体は日本国内にも世界中にもたくさんの競合メーカーが存在しますが、その中で勝ち抜くにはどうすればよいのか・・・。技術者として審美眼をつねに磨きながら、必要とされる市井のトレンドをグリップしていきたいと常にアンテナを張っています。
また数年前から会社のリクルーターをしています。春頃には足しげく母校を訪れ、現役学生の勧誘や、就活・面接・配属先のアドバイスなど行っています。今後も、将来有望な技術者のタマゴを電機大学から見つけたいと考えています。

技術士:OB会での会話が導いた最高峰の国家資格
ここで私が持っている技術士の資格について少しご紹介したいと思います。
「技術士」とは、科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある最高位の国家資格です。いくつかの技術部門に分かれており、私は電気電子部門の技術士資格を武器に仕事に役立てています。
大学を卒業したころは技術士資格について意識したことは無く、ぼんやりとした知識しかありませんでした。ではなぜ技術士をめざしたのか。在学中に所属していたアマチュア無線部のOB会(学園祭の時期に行われるOB会にも毎年参加しています)で、初代の東京電機大学技術士会会長の故・澤栗裕二先輩の話を伺ったことがきっかけの一つとしてあげられます。
同じアマチュア無線部だった大先輩の澤栗先輩と15年ほど前のOB会でお話しさせていただく機会があり、名古屋地区の放送局で働いていたこと・技術士の資格を持っていること・資格を活かして退職後はコミュニティFMの仕事を行っていることなど自身にとってプラスになる話を聞かせてくださいました。
こういった機会を得ることができるのは、東京電機大学卒業生の醍醐味だと思います。また、アマチュア無線部のOB会仲間の中でも数人が既に技術士の資格を持っているという話も耳にし、「これならば私でも取れるのでは?」と思い、資格取得を目指すことにしました。アマチュア無線部には向学心のある仲間が多いのかもしれません。
技術士試験は第一次試験(択一式)・第二次試験(筆記試験と口頭試験)の2回の試験に合格する必要があります。第一次試験は難なく合格したものの、第二次試験の筆記試験の攻略が非常に難しい。幾度もくじけそうになりながら数回の二次試験の受験経験を経て、令和元年(2019年)度に見事、技術士(電気電子部門)に合格!

公益社団方針 日本技術士会公式HPより
https://www.engineer.or.jp/contents/become_engineer.html
技術士会として。実学を活かし経験を後輩たちへ伝える
その後、「東京電機大学技術士会*5」(会長:吉田義昭氏,昭和54年P科卒) に参加する機会があり、会の皆様からは常に様々なことを吸収させていただいております。これまで電気電子工学科(EJ科)のエンジニアリングデザイン概論や電気電子総合ゼミの授業にも参加の機会をいただきました。
大学への恩返しとして、私の技術者としての実際の現場での知識を、授業を通じて学生にフィードバックすることができればと考えています。今後も私自身が楽しく東京電機大学技術士会に参画させていただき、また電機大学の発展に微力ながら貢献できればと思います。
*5 東京電機大学技術士会 東京電機大学校友会公認団体。詳しい活動内容や入会方法はこちらから(公式HP)

東京電機大学技術士会の見学会で首都圏外郭放水路を見学。2024年11月10日
筆者は前列左から2人目。
未来へ繋ぐ「三現主義」と「ひらめき」。現実に謙虚な技術者たれ
2012年9月に発行されたアマチュア無線部の冊子「アマチュア無線部昔々物語、部誌からみた58年」を読み返していたところ、蓮見孝雄元理事長の書かれた文章に「ひらめきは実験の積み重ねの中から起こると思う」という一節がありました。
私も従事している製造業では「三現主義:現場で・現物を・現実に見ろ」という言葉もあります。警察ドラマではありませんが、現実は会議室で起きている訳ではありません。技術者は測定データーや顧客の声などの事実に謙虚でなければならないと思います。
何ごとも新しいことに取り組む際、スムーズに上手くいくことは少ないものですが、仕事も、そしてそれ以外も、あまり気張ってばかりではなく、でもやる時は「能力と努力と根性」で、そして現実に謙虚で、今後も励んでいきたいと思います。
平成9年(1997年)
工学研究科電子工学専攻修了
高橋 正好