母校支援

一人一人に高い付加価値を! 技能検定を利用した職業訓練の成果をご紹介

みなさんこんにちは。昭和57年に工学部二部機械工学科を卒業した涌井正典です。東京電機大学 機械工学科の技術職員として、本物の技能を身に付けてもらうことを目的に学内で職業訓練を行っています。今回は現場の様子を紹介したいと思います。

本物の技能・技術を継承していくために

息子が工業高校へ入学し、私は彼に技能士資格取得や旋盤などの技能大会を目指してほしかったのですが、残念ながら指導できる教員がいませんでした。そのため、私が彼を指導し、技能士資格取得や旋盤大会での入賞に導きました。

現在、工業大学では学術が重視される一方で、技能・技術については軽視されがちです。その結果、技能を継承するための教員不足が深刻化しています。

工業高校教員の技能が著しく低下していることを実感した私は、平成20年に大学で技能訓練を開始し、これまでに10名以上の技能士教員を育成してきました。技能訓練を行う中で、M工作室※に出入りしている研究室の学生・院生も興味を持って入門するようになり、有名企業や東大研究所、都立研究所、JEED指導員などに就職しています。

私が大学で技能訓練を取り入れた目的は、国家資格である2級技能士を目指し、学内で職業訓練を行い、本物の技能を身に付けることです。これにより、履歴書に実績を示すだけでなく、他大学をしのぐ就職活動の成功の秘訣にもなるからです。

※M工作室:機械工学科実習工場

社会での評価を高め、職業能力の向上につながる技能検定について

技能検定は、「働く人々の有する技能を一定の基準により検定し、国として証明する国家検定制度」です。この技能検定は、技能に対する社会一般の評価を高め、働く人々の技能と地位の向上を促進することを目的として、職業能力開発促進法に基づき実施されています。

技能検定試験は前期・後期に分けて実施され、特級(管理者または監督者が通常有すべき技能の程度)・1級(上級技能者が通常有すべき技能の程度)・2級(中級技能者が通常有すべき技能の程度)・3級(初級技能者が通常有すべき技能の程度)に区分される場合と、等級を区分しない単一等級の場合があります。

一般の電大生は2級までの取得が可能です。一方、学生職員(夜学学生)は、実務経験が考慮されるため、1級までの取得が可能です。これまでに、在学中に3人が1級を取得し、その後、企業・研究所で大活躍しています。

高校普通科出身者は3級から受検可能ですが、工業高校出身者は1年生から2級の受検が可能です。機械保全職種においては、前期に3級、後期に2級を取得できるため、一年間の訓練で2級まで進むことができる利点があります。

技能検定試験には実技試験と学科試験があり、両方の試験に合格する必要があります。ただし、どちらか片方のみ合格した場合は、不合格となった試験のみを再受験し、合格すればよいです。全ての職種において、100時間の訓練が必要です。

資格取得のための訓練の内容を紹介します

実際の訓練では、山本五十六語録の一つである『やってみせ、させてみせ、誉めてやらねば人は動かじ』をモットーに実施しています。

①機械加工(普通旋盤、フライス盤、マシニングセンター)

操作法やコツ、掃除の仕方などを指導し、加工を一緒に行いながら段階的な練習で腕を磨き、その後、通し練習で精度の向上・時間短縮を目指します。訓練は志願制で、個々の進度や実力に合わせて、じっくりと時間をかけて取り組みます。


2級旋盤訓練


2級フライス盤訓練

②機械保全(機械系、電気系)

機械系はカード方式の課題に取り組みます。このカードには機械要素の説明、多岐にわたる模擬問題などが書かれており、機械技術者として、即戦力としても活躍できる知識を得ることができます。

学生たちは自己学習を行い、工場で問題に取り組み、質疑応答を通じて理解を深め、得点を競いながら力をつけていくのです。訓練時間は個人によって異なるため、それぞれのスケジュールに時間を合わせて調整します。例えば、ある学生は授業終了後の21時20分に来て、22時30分まで訓練を行い、時には白熱して23時まで訓練を続けたこともありました。

電気系の訓練では、電盤を作成し、チャートに従って動作確認できるよう、簡単な配線からスタートします。自己保持やフリッカーなどの経験を積ませ、正確で効率的な配線技術を身に付けることを目指します。

この訓練を経て中級技能者となり、他大出身者をしのぐ実力を身に付けることができます。


機械保全(機械系)訓練

③機械・プラント製図(CAD)

3級のCAD検定試験は3時間、2級は4時間かかるため、合格するためには多くの訓練や練習が必要です。まずは簡単な課題から始めて、千葉県製図コンクールの課題、そして3級の過去問に取り組み、徐々に難易度を上げます。3級であっても、企業の設計製図職務において高く評価されることもあります

また、試験の1週間前には、各学科で過去問を解き、質疑応答を行うことによって理解が深まります。

④金型製作(プレス金型)

この職種では3級の技能検定試験は存在しないため、在学生には訓練を行っていません。ただし、卒業生の中で希望する方には訓練を提供しています。

この技能検定は、最も難しい部類に入る試験です。試験時間2時間30分の中で、フライス盤・ボール盤・研削盤・手仕上げ・組立・プレス機による試打を行い作った金型でプレス製品を提出し、製品・金型検査を受けることになります。

これまでの成果

技能検定に合格すると技能士章というバッジが授与されます。特級は金に白い七宝焼き、1級は金バッジ、2級は銀バッジ、3級は銅バッジです。合格すると電大トピックスで紹介され、合格者の多くは撃墜マークのように複数のバッジを持っています。

■機械工学専攻、機械工学科の学生が「二級機械保全」「三級電気保全」に合格
https://www.dendai.ac.jp/dendai-people/20220519_01.html

その自治体の最高点(実技90点以上、学科95点以上)を取った者は優秀技能者賞を顕彰され、今まで2名の顕彰者がいます。

■機械工学専攻 小出さんが技能検定成績優秀者表彰を受けました
https://www.dendai.ac.jp/dendai-people/20221205-01.html

■機械工学専攻 安福さんが技能検定成績優秀者表彰を受けました
https://www.dendai.ac.jp/dendai-people/20191206-01.html

※URLをクリックいただくと東京電機大学の公式サイトに移動します

技能訓練における電機大学の強み

これまで、訓練校や工業高校、大学などで技能継承活動をしている先生方と出会いましたが、皆さん、職業訓練を趣味の範疇と考えていました。時間や曜日が限られているため、自由度については、電大に比べると制限があります。

一方、電機大学では、予算は少ないながらも、他校に負けないように上手くやりくりして、熱心に弟子を育てています。自由な環境で学ぶことができ、教職員全員が協力してくれます。

また、電機大学は、今年度から製図技能士の試験会場として公認会場になりましたが、PCや大型プリンター、大型テーブル等、必要となる備品の問題に直面しました。予算も底をつき悩んでいましたが、学科長に相談し、その他、教員の方々の協力もあって、必要な物をすべて準備することができました。

電大トピックスを見てくださっている先生方の協力があってこそ実現したのです。私は、65歳嘱託定年まであと2年ですが、後任にも同様に技能継承である技能士養成を続けていってほしいと願っています。

私自身の資格取得体験について

私が取得した資格は、金属プレス1級、職業訓練指導員免許、金属プレス特級、金型製作1級、機械加工(マシニングセンター)、機械保全(機械系)です。

機械保全(機械系)の学科試験は広範囲にわたり、あらゆる知識が必要です。私は指導者として、弟子たちには、くれぐれも職業訓練指導員免許保持者の学科免除制度を利用しないように、正面から挑戦するように指導していました。しかし、私自身は53歳で勉強が追い付かず、学科免除制度を利用して資格を取得することになってしまいました。

また、以前、東京都立 職業能力開発センター大田校(金型科に関して)の講師をしていた時、金型製作1級を目指しました。平成15年に初めて受検し、周りにだれも受検者がいない中、独自に攻略法を模索し研究を重ねました。その結果、平成22年の厳冬に、試験機械の誤差を指摘し、高い技術力を発揮して正確な寸法を決め、見事合格することができました。また、私が育てた弟子も1度の受検で合格することができたのです。

最後に、技術を磨くことで、新たな可能性を広げよう

私は自分自身、廃業や転職を経験しましたが、特級技能士や職業訓練指導員免許を持っていたため、転職するごとに年収が上がっていきました。役に立つ資格や学歴があれば、失業することもなく、逆に他の企業から引き抜かれることもありました。

以前は、工業高校の教員を目指す若者たちに技能士を取得させ、技能士教諭を育成しました。その後、電大工場に出入りする学生たちからも訓練を受けたいという要望があり、訓練を提供するようになりました。その結果、多くの学生たちが内定を早期に獲得し、巣立っていきました。

そして、10年ほど前、50代の同級生たちが所属していた電機メーカーでの定年が迫っていたので、職業訓練を施し、一級技能士を取得させて大学教員として育成しました。若年者だけでなく高齢者の訓練も成功しています

私は弟子たちに、「完成車メーカーには行ってならぬ」と言っています。50代で失業してしまい、子供たちを大学に進学させることもできなくなり、家も手放さなければならなくなる人もいるからです。企業から人員削減の対象となることを避けるため、技能を研鑽してゆくように指導しています。

昭和57年3月卒業
工学部二部機械工学科
涌井 正典
特級技能士
https://www.kikaihozenshi.jp/effort/effort23/